umelabo log

kazuki umezawa

05写真新世紀

最終日に、まさにすべりこみで写真新世紀展に行ってきました。
http://web.canon.jp/scsa/newcosmos/

新世紀とひとつぼ展が今の若手写真家の登竜門的な公募なのだと知ったのは最近です。去年はそんな世界にあまり興味がなかったのですが。二年になってから自分でそれとなく意識をもって写真を撮るようになってものの見方がそれとなく変わりました。なんでも切り取れるとか、同じ素材でも見せ方が色々あるとか。

はじめての新世紀体験でしたが、個人的には優秀賞より佳作に気になる写真がいっぱいあった。優秀賞をとった人の作品は広めにスペースがとってあってそれぞれ展示してあるのに対し、佳作の作品群は25人分の作品やポートフォリオが所狭しと配置されていて冷遇されている。佳作の中にはしっかり写真集として完成しているポートフォリオやとげとげしいテーマを扱った内容のものがあって、それらがとても印象に残った。

特に心に残ったのが渡辺一城(かずき)という人の「豚」。
豚が養育され、屠殺され、食肉になるまでを生々しく撮った写真がならんでいた。
その距離は、近い。
具体的に言うとレンズと豚の距離が近かった。
豚の瞳にあと数cmというところまで迫っている写真がいくつもあった。
その距離感は豚が生まれて死んでいくさまを生々しく描いていた。
奇妙にくねったしっぽをいっぱい並ばせながら体をよせあい檻の中でひしめき合う豚、
交尾する豚、寝る豚、食べる豚。
それらの豚は醜いようでユーモラスでかわいい形状をしてるので見てておかしかったのだが、
後半で豚たちは刃物で肉塊になる。
その変化が急でとても驚くのだが、冷静に写真をみつめると、
撮り手は生きている豚も死んでいる豚も同じように近い距離で、
しっかりと撮っているのがわかる。
空中をほとばしる豚の血や体液がくっきりと写されているさまは、
残酷な現実なのにどこかスペクタクルで、
この写真群の妙な感じをよく表象しているようだった。
しかしながら、
豚の目が、
しみやなにかのかすにまみれたまぶたの奥にきらきらぬめって光っている黒い豚の瞳が、
あまりに空虚だった。
交尾している時も、肉塊にされ首だけになった時も、同じく空虚だった。

ここまで生々しく撮ったのだから、その根本にある衝動みたいな何かは相当でかいもんだと思う。作者は子供の頃から豚が肉になるをずっと見て育ってきたらしい。やはり何かを撮るという事はその人のもともとの内にある経験やひずみを持った思いが動機になるという事なのだろうか、それともそれ以外にもあるのか。

川内りんこさんの写真集で実家でおじいちゃんとおばあちゃんを撮って、おじいちゃんが死んでしまった後に赤ん坊が生まれて、みたいな内容の写真集があったけど、なんか命の連鎖ということでは同じ事を撮っている気がした。色々と違うけど。


あと他には川西真寿実という人の「LAND OF THE RISING SUN」というのが気になった。幼稚園児が都会のいわゆるあやしい場所や危ない場所にぽつんといる写真ばかりをコンセプチュアルに撮っている。ロケーションなどを選出して子供の配置や画面の構図を決めてからしっかりと撮る感じ。レンタルビデオショップやオ、タクっぽい商品がいっぱい並んだ店とか、タバコの自販機があるだけの薄暗い裏通りとかに黄色帽子をかぶった幼稚園が画面の真ん中やちょっと隅とかに写っている。他に人間は写っていない。それが良くって、危うさはもちろん、すこしのおかしさや気まずさもある不思議な写真だ。その、街に子供だけがぽつんといるのがまあ危なさを感じさせるわけだけど、そうやって子供をモチーフにしてそこはかとなく危険や視線にさらすという写真の行為は自分の中でけっこう重いテーマなので気になりました。重いというか、苦しいというか、性癖というか。


優秀賞のなかでは「internet images[p.n.001]」に興味をもった。
インターネットからダウンロードしてデジタル処理を施した複数の画像で構成された作品、というのはかなり自分のふだん考えている事を刺激する内容で、「何か具体的なモノが見えてきそうで見えてこない」という感覚もとてもおもしろい。しかし作者が話す日にいけばよかった。正直作品だけ見てもコンセプチュアルすぎて色々わからない。



トリエンナーレもそうだったけど、複数の作家が同時にいっぱい出す展示はいっぱい見れておもしろいのと同時に、展示としてのまとまりに欠ける。それとその作者の考えてることは大体入り口ぐらいまでしかわからない。やっぱり大きな展示で知った個々の作家をチェックして個展まで足を運ぶのが正しいあり方なのだろうか。
これって漫画雑誌と単行本の関係に似ているような。色んな漫画が一話ずつ載っている週刊漫画雑誌と一人の漫画家の作品だけをまとめた単行本。雑誌は毎週読めて色々バラエティに富むけれどそれぞれの作家の事は少ししか知られない。単行本は一つの漫画だけで月間かそれ以上の間隔でしか手に入らないけど一人の作者の世界をより深く知ることができる、毎週すこしずつみていた話がひとまとめにして読んでみるとまた違って見えたりする。…とか、どうだろ。